「ごっこ遊び」で未来を描く

イメージを共有して、「もう一人の自分」を描き出す
幼児期の子どもの遊びで特徴的なのが「ごっこ遊び」です。
ごっこ遊びの魅力は、何といっても自分とは違う誰かになれる面白さ。そこには、幼児期にしか獲得しえないとても大切な発達を、豊かに追体験する要素がたくさん埋め込まれています。
子どもたちに人気の「おかあさんごっこ」。お母さんになりきってフライパンを握る手つき、洗い物をきびきびとこなす仕草は、感心するほどに堂に入っています。
また、コロナ禍の年、年長児の遊びで「コロナけんきゅうじょ」が始まりました。アスレチックの一部を使ってウイルスを研究し、治療薬を開発するという大人顔負けの研究所です。子どもは子どもなりに社会の動向や事象をよく見ていることがよくわかります。
また、親御さんの協力を得て「きなこ」や「せっかい」を持ち寄って作った色とりどりの粉薬を、がんなどを治す薬として並べることも。その隣に、空を飛べる薬や透明人間になれる薬が並列して置かれている光景に、幼児の持つ豊かな想像力を感じずにはいられません。
こういった子どもの想像力豊かなごっこ遊びは、カリキュラムに追われることなく臨機応変に子どもたちに時間を与えることができ、子どもたちの自由な姿や自主性を大切にする保育の姿勢に支えられています。
実体験を元に、ふくらんでいく世界
様々なものや事柄からイメージが生まれ、「~のつもり」の世界が始まるごっこ遊び。遊びを繰り返す日々の中で、関わる人や物が変わり、遊びも変わっていきます。カラオケごっこにアイス屋さんごっこ、工事ごっこに病院ごっこ。子どもの実体験が元になって、「あれが欲しい」「こんなのないの?」とイメージがふくらみ、たくさんのグッズが作られていきます。
ごっこ遊びは、それぞれが抱くイメージを重ね合わせながら進める遊びです。イメージを共有する力は、社会の中で自分らしく生きていく上でのとても大切な力。自我形成の途上にある子どもたちは、何気ない遊びの中でもこんなことを無意識に繰り返しながら、概念的なものの理解や、客観的なものの見方をおぼろ気ながら身につけ始め、そして、自分という存在のイメージをより鮮明にしていくのです。
未来を生き抜く力を育むという責任
幼稚園の集団生活は、決して個性を埋没させるところではなく、それぞれの個性を光らせるところ。
一人ひとりが「主体者」として活躍できた時、子どもたちの中では主体的な他社と自分とが互いに響き合い、おそらくこうした関係をくぐることで初めて、「主体的であると同時に協働的」に生きる自分に出会うのだろうと思います。
10年後、20年後、30年後……子どもたちはどんな社会を生き抜いていくのでしょうか。先の読めない時代だからこそ、変化する社会状況の中でも常に自分の夢を思い描き、自分をそこに向けていく人となるよう支えることが、今を生きる私たち大人の責任であるように思います。
